住宅売買契約における売買対象物の範囲

1. 住宅売買契約における売買対象物

一般に、住宅用土地付建物売買契約を締結する際に、売買契約書に売買の目的物として記載されるのは建物とその敷地だけです。具体的には、建物については建物登記簿の表題部に記載されている事項(建物を特定する事項)が売買の対象物として記載され、土地については土地登記簿の表題部に記載されている事項(土地を特定する事項)が売買の目的物として記載され、それ以外の物は売買の目的物としては記載されていません。

そこで問題となるのが、土地付建物を売買した場合に、建物の居室内に存する畳や障子、襖などの建具、建物内のシャンデリア、同一敷地内に存する納屋や庭石などが、土地や建物と一緒に売買されたのか否かということです。実務的には、売買契約締結後、売主は、売買契約書には売買の対象物として記載されていない上記の物などを持ち去ることができるのかということです。

2. 不動産売買における主物と従物の概念

確かに、一般の売買契約書には、売買の対象物としては、建物本体と敷地しか表示されていませんので、このことから、土地付建物売買契約の売買の対象物は、契約書に記載されている建物本体と土地のみであると解釈されることになるのかが問題となります。この問題は、建物の居室内に存する畳や障子、襖などの建具、建物内のシャンデリア、庭石などが建物や土地を主物とした場合に、従物と判断されるか否かということです。主物と従物とは民法に規定されています。

【民法第87条(主物及び従物)】

  1. 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
  2. 従物は、主物の処分に従う。

したがって、売買契約書には特に売買の対象物として記載されていない場合でも、従物は主物の処分に従うとの規定により、建物の売買に付随して、畳、障子や襖などの建具も買主が買い取ったことになりますので、原則として、売主はこれらを持ち去ることはできません。

しかし、同じく建物内に存するテレビや洗濯機、冷蔵庫、テーブルと椅子なども従物として売主は持ち去ることができなくなるのでしょうか。従物には4つの要件が必要とされています。

従物の4要件

  1. 主物の常用に供せられるものであること(継続的に主物の効用を助けるもの)
  2. 特定の主物に附属すると認められる程度の場所的関係にあること
  3. 独立した物であること
  4. 主物と同一の所有者に属すること

この要件からすると、テレビや洗濯機、冷蔵庫、テーブルなどは当該建物だけではなく、転居先でも利用可能ですが、障子や襖などの建具や畳、備え付けのエアコン、造り付けの家具などは転居先では利用できません。わかりやすくいうと、転居先で利用できないようなものは従物と考えてよいと思われます。

この点で、微妙な判断となるのは後付けのエアコンや照明器具などです。中古の土地付建物売買契約の場合には、こうした付帯設備の扱いについて契約書に明記することでトラブルを防ぐことが可能です。

売買契約の締結の際には、実際に売却される物が何であるかを確認し、後日にトラブルを生じないよう、付帯設備表を売買契約書に添付するなどして、売買の対象範囲に疑念を残さないようにすることが必要です。

弁護士
江口 正夫