住宅ローン条項と指定機関外からのローン

1. 住宅ローン条項と金融機関の指定

住宅ローン条項(以下ローン条項)を適用する際に問題となるのは、金融機関の指定の問題です。ローン条項を不動産売買契約書に盛り込む際に、金融機関を特定することなく、およそ金融機関から融資を受けられなかった場合には契約を解除出来るというような条項は無限定の合意となりますし、実際に用いられていません。ローン契約では、特定の金融機関の融資が受けられなかった場合には、不動産売買契約を解除できるか、あるいは当然失効とするかが定められています。ローン条項には、ローン不成立の原因を問う形式のものと、原因について何も規定していないものの2つの定め方があります。

ローン不成立の原因を規定するローン条項

「万一、買主の責に帰すことのできない事由により、○月○日までにX銀行A支店の融資が不成立の場合、買主は本契約を解除することができる(あるいは、「本契約は当然に効力を失う」。)。」

ローン不成立の原因に言及しないローン条項

「○月○日までにX銀行A支店の融資が不成立の場合、買主は本契約を解除することができる(あるいは、「本契約は当然に効力を失う」。)。」

2. ローン条項と指定金融機関外のローン実行の可能性

上記のようなローン条項を合意した場合に、買主の責に帰すことのできない事情によってX銀行A支店のローンが不成立であったために、買主が、売主業者にローン条項による不動産売買契約の解除を申し入れた際に、売主業者が、Y銀行B支店のローンを斡旋し、Y銀行B支店のローンならば実行可能であると主張して解除に応じないことは認められるのでしょうか。もちろん、Y銀行B支店のローン条件がX銀行A支店の条件よりも買主に不利である場合は、ローンの一部不成立の場合と同様に解され、ローン条項が適用される、と一般には解されています。

問題となるのは、Y銀行B支店のローン条件がX銀行A支店の条件と同じである場合です。しかし、上記のローン特約の文言は、あくまで「○月○日までにX銀行A支店の融資が不成立の場合、買主は本契約を解除することができる。」と規定されていますので、ローン条項に指定された金融機関とのローン契約が不成立となった以上は、原則として、買主はローン条項を適用して不動産売買契約の解除をすることが出来ると解されます。

ローン条項は、当事者間の合意を根拠とするものですから、文言上は、特定の金融機関のローンが不成立であれば、買主は契約を解除出来るのが原則ということになります。従って、ローン条項で明示された金融機関の融資が不実行となった場合は、売主側が、条件が同一の別の金融機関のローンがある旨を提案した場合であっても、買主がその提案を拒否し、解除を主張することが権利濫用とならない限り、ローン条項は適用される、と解されます。なお、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争事例では、買主が不動産売買契約時に提示された銀行でのローンが不成立であったため、ローン条項の適用を申し入れたところ、売主が、ローン条件が同一の別の銀行のローンを斡旋して解除に応じなかったというケースで、買主が、別の銀行のローンの実行を受けて解決したという事例もあります。

弁護士
江口 正夫