土地付建物の売買契約を締結し、契約の履行をする時点で、売主が土地建物は買主に引き渡したものの、所有権の移転登記をしてくれないという場合もあり得ます。このとき売主は、買主に対し、土地建物の所有権移転登記は未了ではあるが、既に土地建物は引き渡しており、買主は土地建物を使用しているのだから残代金を支払えと請求した場合に、買主は代金の支払いを拒めるかということが問題となります。
このような場合に機能するのが「同時履行の抗弁権」です。民法では、売買契約などのように契約当事者の双方が互いに相手方に対して義務を負う契約(これを「双務契約」といいます)の場合に、「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。」(改正民法533条)と定めています。
売買契約の場合は、売主は買主に対して売買目的物の引渡し・所有権移転登記義務を負っており、買主は売主に対して目的物の代金支払い義務を負っていますので、売買契約は双務契約です。したがって買主は、契約の相手方である売主が「その債務の履行を提供するまで」は自己の債務(すなわち「代金支払債務」)の履行を拒むことができることになります。相手方である売主の債務の内容は、目的物の引渡義務のみではなく、所有権移転登記義務も含まれますから、買主は売主が目的物を引き渡したとしても、所有権移転登記の提供がなされていない限り、代金の支払いを拒むことができます。