土地建物売買契約の売主の債務不履行責任

1. 債務不履行の類型

契約の当事者が契約に定めた債務を履行しない場合には、債務を履行しなかった当事者には債務不履行責任が発生します。一般的に、債務不履行責任には3つの類型があるとされています。

1つ目は、債務の履行が可能であるにもかかわらず履行期が到来しても、債務の履行をしない場合です。これは債務の履行が履行期よりも遅れていることになりますから、「履行遅滞」の責任が発生します。

2つ目は、債務の履行が形式的にはなされてはいるが、それが本来の債務の本旨に従ったものではなく不完全な債務の履行である場合です。これは「不完全履行」と呼ばれています。

3つ目は、債務を履行しようにも、その履行が不可能となっている場合です。これを「履行不能」といいます。

民法415条は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」と定めています。民法415条前段の「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」に上記の履行遅滞と不完全履行が、後段の「債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったとき」が履行不能に該当します。

この3つの類型のいずれにおいても、「債務者の責めに帰すべき事由」が存することが債務者の債務不履行責任を追及する要件となります。

2. 土地建物売買契約の売主の債務不履行

土地建物の売主の債務の内容は、一般的には、(1)売買対象である土地建物の引渡義務、(2)土地建物の所有権移転登記義務が主要なものです。

売主が、売買契約の決済期日が到来しているのに土地建物の引渡し・移転登記をしないという場合は、売主の責めに帰すべき事由がない場合を除いて、原則として「履行遅滞」の責任が発生します。また、売買契約締結後に、売買対象の建物が火災で焼失したという場合には、売買対象建物はもはや存在しないため引渡義務や移転登記義務を履行することは不可能になっています。

この場合には、売主の責めに帰すべき事由があった場合、例えば、売買契約締結後に売主の失火で売買対象建物が火災で焼失したという場合は、履行不能となったのは、売主の過失によるものですから、「債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったとき」に該当し、売主は履行不能の責任を負うことになります。

これに対し、履行不能になったことにつき売主には責めに帰すべき事由がない場合もあり得ます。売主は売買契約後も相当の管理を行っていたにもかかわらず他所から火災が発生し、折からの強風で近隣家屋が次々と焼失し、売買対象建物が類焼したというような場合です。この場合は「債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったとき」には該当しませんので、売主は履行不能の責任を負担することはありません。この場合は「その物が債務者の責めに帰することのできない事由によって滅失し、又は損傷したとき」に該当しますので、「債務不履行責任」ではなく、「危険負担」の問題となります。ちなみに、土地建物の売買契約において、売買対象建物が「債務者の責めに帰することのできない事由によって滅失」したときは、民法534条は、その危険は債権者の負担に帰すると定めていますので、債権者である買主は、売買対象建物を取得できないにもかかわらず、代金支払義務だけは残るというのが民法の規定です。

弁護士
江口 正夫