売買契約に要する費用の負担

1. 売買契約の締結に際して発生する諸費用

土地付き建物の売買契約を締結した場合には、色々な費用が発生します。例えば契約書を作成するための費用としては、印刷費用、契約書に貼付する収入印紙の費用や立会人を頼んだ場合は立会人の費用、公正証書で売買契約を締結するときは公証人に対する費用が掛かります。土地の測量費用や、売買目的物の所有権移転登記をするための登録免許税や司法書士手数料なども通常掛かる費用です。

これらの費用は、売主と買主のいずれが負担すべきものなのか。これらの費用の負担については、通常は、売買契約を取り交わす際にその全部または一部について費用負担の合意をしていることが多いと思いますが、契約で合意していない場合に、本来的にはどちらが負担すべき費用かは明確に認識する必要があります。 民法では、このような売買契約の締結に際して発生する諸費用については、(1)売買契約に関する費用と、(2)弁済に要する費用とに分け、(1)の売買契約に関する費用は当事者が等しい割合で負担することと定め(民法558条)、(2)の弁済に要する費用については、別段の意思表示がないときは債務者の負担とするものとされています (民法485条)。

問題は何が「売買契約に関する費用」で、何が「弁済に要する費用」に該当するのかということです。

2. 具体的な費用の負担

(1) 契約書作成に要する費用

契約書の印刷代やコピー代などは契約を締結するために必要な費用ですから、売買契約に関する費用に該当することは明らかです。 したがって、何も約束しなければ民法558条に従い売主と買主の折半となります。 契約書の作成を弁護士に依頼した場合の弁護士費用ですが、弁護士に依頼する場合はあらかじめどちらの費用負担で行うかを取り決めているのが通常と思われますが、仮に決めていなかったとしても、両者合意の上で弁護士の作成した契約書を使用するということであれば売買契約に関する費用に該当するということになります。立会人の費用については、立会人は必ず必要だというわけではありませんが、両者が合意して立会人を求めたということであれば、やはり契約に関する費用として当事者折半となります。

(2) 収入印紙代

土地・建物の売買契約書を作成した場合には、必ず収入印紙を貼る必要があります。どのような契約書を作成した場合に収入印紙を貼る必要があるかは、印紙税法という法律に定められています。

(3) 測量費用

測量費用は、理論的には売買契約に関する費用に該当するものと解されていますが、実際には売買対象の土地の範囲を確定するのは売主の責務だということから、買主に負担を求めるケースは少ないと思われます。

(4) 登録免許税と司法書士手数料

登録免許税と司法書士手数料の負担は通常は売買契約書に定められていますが、仮に定めがなかったとすると、いずれが負担するかについては説が分かれています。 いずれも登記に要する費用であって、(1)登記は対抗要件を完備するもので契約を確実にするものだから契約に関する費用とみて折半とする説と、(2)買主が権利を確実にするための費用だから買主負担であるという説、(3)所有権の移転登記は売買契約を履行するための費用だから「弁済に要する費用」に該当して売主の負担であるという説、とに分かれています。
弁護士
江口 正夫