不動産売主の契約不適合責任 ~瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

改正民法(債権法)では、改正前民法における特定物売買の目的物に瑕疵が存在した場合の瑕疵担保責任(改正前民法570条・566条)の規定が見直され、契約不適合責任へと変わることになります。

1. 改正前民法の瑕疵担保責任

改正前民法では、売買物件に「隠れた瑕疵」が存在する場合は、売主は瑕疵担保責任を負うものとされ、瑕疵担保責任の内容は、

  1. 原則として損害賠償
  2. 例外的に契約の目的を達しない場合に限り契約の解除

の2つが認められるというものでした。瑕疵担保責任に基づく損害賠償も契約の解除も、いずれも売主が無過失の場合であっても発生するものとされています。このような瑕疵担保責任という概念が認められた理由は、土地・建物売買契約のように、契約の目的物がいわゆる「特定物」であるからです。売主の債務は特定物である当該土地と当該建物を引き渡すことですから、たとえ、土壌汚染のある土地や雨漏りのする建物を買主に引き渡したとしても、売主は、自己の債務を履行しており、売主に債務不履行はないと考えられてきたからです。

そうすると、売主は、瑕疵のある土地・建物を引き渡したとしても、売主としての債務は履行したことになり、債務不履行責任を負わないことになりますが、そのような結論は、瑕疵のある土地建物を引き渡す売主と、瑕疵の存在を知らずに売買代金を支払う買主との間に経済的な不公平を生ずることになります。このために、法が特別に定めた責任(法定責任)として設けられたのが瑕疵担保責任です。

瑕疵担保責任は、売買当事者の不公平を是正するために法が特別に定めた責任ですから、売主に責めに帰すことのできる事由は必要ではありません。その故に、瑕疵担保責任に基づく損害賠償も契約解除も売主が無過失であっても発生することになりますし、債務不履行責任の場面ではないので、契約の解除は契約の目的が達成できない場合に限り認められています。また、瑕疵が「隠れた」ものでない場合は、あえて法定責任を認める必要もないと考えられます。ただし、損害賠償の範囲は、買主が瑕疵がないものと信頼したことより被った損害(いわゆる「信頼利益」)の範囲に限られることになります。

改正前民法における瑕疵担保責任の要件と効果

  1. 目的物に「隠れた瑕疵」が存すること
  2. 責任の内容は原則として損害賠償(信頼利益に対する賠償)
  3. 契約目的不達成の場合に限り契約解除可
  4. いずれの責任も売主の無過失責任

2. 改正民法の契約不適合責任の内容

改正民法では、改正前民法の瑕疵担保責任に代わり、いわゆる「契約不適合責任」に置き換えられることになりました。その理由は、目的物が契約の趣旨に適合しない場合は、特定物売買であったとしても、債務の不履行に該当するのではないか、という考え方によります。契約不適合責任においては、「瑕疵」や「隠れた」という概念は直接の要件とはされていません。改正民法における契約不適合責任では、客観的に瑕疵といえるか否か、それが隠れたものであるか否かを問題とするのではなく、引き渡された目的物がその種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しているか否かが問題になります。

改正民法では、契約不適合責任の内容としては、①履行の追完請求権(改正民法562条)、②代金減額請求権(改正民法563条)、③債務不履行の規定による損害賠償(改正民法564条)、④債務不履行の規定による契約解除(改正民法564条)が定められています。

(1)履行の追完請求

改正民法562条は、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完」を請求することができると定めています。改正前民法の瑕疵担保責任の内容は、損害賠償か解除でしたが、改正民法の契約不適合責任は、債務不履行責任の一場面ですので、買主は、売主に対し、本来の債務の履行を求めるという意味で、「目的物の修補」の請求ができることになります。なお、「代替物の引渡し」も規定されていますが、これは不動産売買のような特定物売買には適用されません。

(2)代金減額請求

改正民法563条は、同562条の買主の追完請求権に関して、買主に代金減額請求権が認められるとしています。ただし、売主としては、代金を減額されるよりは、修補することにより代金は全額支払ってほしい等とする売主側の利益を考慮して、原則として、買主が、売主に対して相当の期間を定めて履行の追完の催告をして、その期間内に履行の追完がなされない場合でなければ代金減額請求権は行使できないとされていることに注意が必要です。
追完請求権(修補請求権等)、代金減額請求権は、債務の本来の内容の実現を求めるものですから、売主の過失は要件とされておりません。

(3)損害賠償と解除

改正民法では、契約不適合責任は債務不履行の一場面であると考えますので、契約不適合の場合における損害賠償や契約の解除は、債務不履行の規定に従って認められることになります(改正民法564条)。

① 契約不適合責任における損害賠償

契約不適合責任では、損害賠償は債務不履行責任とされますので、債務不履行の損害賠償の一般原則と同様に債務者に責に帰すべき事由が認められない場合には損害賠償責任は認められなくなります。従来の瑕疵担保責任では、瑕疵担保責任に基づく損害賠償は売主の無過失責任とされていましたが、改正民法の下では、契約不適合を理由とする損害賠償は売主の無過失責任ではなくなります。また、損害賠償の範囲も、債務不履行責任ですから、当該契約不適合と相当因果関係の範囲内である限り、信頼利益の範囲にとどまらず、履行利益についても損害賠償請求ができることになります。

② 契約不適合責任における契約解除

改正前民法では、売買の目的物件に隠れた瑕疵が存する場合に認められる瑕疵担保責任の内容は、原則は損害賠償であって、契約の解除は、買主がその瑕疵を知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができない場合に限られていました。これに対し、改正民法では契約不適合責任は、債務不履行の一場面と解されることになるため、契約不適合責任に基づく契約解除は、債務不履行による解除と同様に処理されることになりました。
契約不適合責任に基づく解除は、債務不履行の一般原則と同様に、相当の期間を定めて催告し、催告期間内に履行されなければ契約を解除できるということになり、債務の不履行部分が軽微であるときは解除できないことになります。
弁護士
江口 正夫