自宅の土地建物の買換特約

1. 自宅の土地建物の買換え

自宅の土地建物を所有している者が、現在住んでいる建物と土地を売却して、その売却代金で新たに二世帯住宅を買うことを計画する場合があります。

この場合に、現在住んでいる土地建物の買主と、新たに購入する土地建物の売主が同時に見つかれば問題はないのですが、通常はタイムラグを生じます。

その結果、通常は、現在住んでいる土地建物の売買契約と、新たに購入する土地建物の売買契約は成立時期が異なることになります。買換えを考えている者をA氏とすると、A氏にとっては、現在住んでいる土地建物の売買契約が先に成立して、新たな土地建物を取得する前に現在の土地建物を買主に引き渡すことになれば、住む家を失うことになってしまうため、売買契約書において、引渡時期を売買契約締結時から転居先の売買契約が成立するまでの相当期間を猶予する特約を設けます。

2. 買換契約の問題点

一般的には買換物件の探索はそれほど長期間を要しないことが多いと思われますが、引渡時期までに買換物件が見つからない場合があり得ます。だからといって、この点を考慮して引渡時期を長期間に設定すると、経済情勢によっては、その間に土地が値上がりし、思うような物件が手に入れられないという場合もあり得ます。

このような事態が生じた場合に、A氏の売買契約は、そもそもA氏が土地建物の買換えを行うことを前提としているものであり、買主にもそのことを説明しているのであるから、買換えができない場合には売買契約は白紙撤回されるか、あるいはA氏が契約を解除すると言えるのかということが問題となります。

これができれば、買換えを行おうとしているA氏にはリスクがないことになりますし、相手方である買主にとっては、せっかく締結した売買契約が効力を失うというリスクを負うことにもなりかねません。しかし、当該売買が売主であるA氏の買換えを行うことを前提としていることが買主に説明されていたからといって、売買契約が当然に白紙撤回されたり、A氏が契約の解除権を有するわけではありません。

買主が、売主であるA氏が買換え目的であることの説明を受け、これを知っていたとしても、契約を失効させたり、解除することができるというためには、A氏と買主との間で、A氏が一定の時期までに買換物件が入手できなかった場合に、売買契約を失効させるか、契約の解除ができる旨の合意が成立している場合でなければなりません。この合意が「買換特約」といわれるものです。一般的には以下のような条項が設けられます。

買換特約に限らず、不動産売買契約においては、例えば、ローンが実行されないときは契約は当然に失効し、あるいは買主が契約を解除できるとする、いわゆるローン条項が設けられることがありますが、この場合においても、ローンが受けられることが前提であると当事者が認識していたとしても、ローン条項が合意されていない限り、契約の失効や解除といった効果は発生しません。不動産売買契約では、具体的な権利義務関係を可能な限り、明確に合意することが必要です。

第〇条(買換特約)

1
売主が〇〇日までに買換物件の購入契約を締結することができない場合は、売主は、同日から〇〇日以内に本契約を解除することができる。
2
売主が前項に基づき本契約を解除したときは、買主に対し、〇日以内に受領済の金員を無利息にて返還しなければならず、売主、買主ともに互いに相手方に対し損害賠償の請求をすることができない。
弁護士
江口 正夫