袋地の通行権と接道義務の関係

1. 建築基準法が定める接道要件

わが国の法律では、建物を建てられるだけの広さの土地があれば、常に建物を建築してよいとされているわけではありません。建築基準法は、原則として、建築物の敷地は、道路(原則として建築基準法42条に定める幅員4m以上のもの)に2m以上接しなければならないと規定しています。つまり、建築基準法は、建築基準法上の道路に2m以上の間口で接している土地であって、2m以上の幅をもって道路に出入りできる土地でなければ、建物の建築は認めないこととしています。これを「接道義務」といいます。

したがって、マイホームを建築する用地として土地を購入する場合、その土地が接道義務を満たしているか否かは重要なチェックポイントです。

2. 購入した土地が袋地の場合の接道義務

購入した土地が2m以上の間口で道路に出入り出来れば問題はありませんが、中には周りの土地に囲まれて道路に出るには他人の土地を通行するしかない土地もあります。いわゆる「袋地」といわれるものです。袋地は道路に接していないのですから、接道要件を満たしていません。したがって、袋地は建築基準法上は建物の建築は不可ということになります。

ところで、民法210条は、袋地については、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」と定めています。これを従来は「囲繞地通行権」、現行民法では公道に至るための他の土地の通行権といっています。この通行権は当然建築基準法の要請である2m幅を要求できるかということが問題になります。

この点については、いくつかの裁判例があり、学説も分かれています。しかし、最高裁平成11年7月13日の判例(判例時報1687号75頁)は、「民法210条は、相隣接する土地の利用の調整を目的として、囲繞地の所有者に対して袋地所有者が囲繞地を通行することを一定の範囲で受忍すべき義務を課し、これによって、袋地の効用を全うさせようとするものである。一方、建築基準法43条1項本文は、主として避難又は通行の安全を期して、接道要件を定め、建築物の敷地につき公法上の規制を課している。このように、右各規定は、その趣旨、目的等を異にしており、単に特定の土地が接道要件を満たさないとの一事をもって、同土地の所有者のために隣接する他の土地につき接道要件を満たすべき内容の囲繞地通行権が当然に認められると解することはできない」としています。要するに、最高裁は、囲繞地通行権が認められる趣旨と、接道要件を定めた趣旨は、異なるものであって、囲繞地通行権の通路幅を決定する際に建築基準法の接道要件を満たすことを求めることは当然には認められないとしているのです。袋地には、こうしたリスクがあること、万一、これを購入する場合には、隣地所有者との間で囲繞地通行権として2mの幅員を容認してくれるかを確認しておくことが重要です。

接道要件
原則として4m以上の道路に2m以上の幅員で接すること。
袋地
原則として接道要件を満たさない。
囲繞地通行権の通路幅が2m以上あれば接道要件を満たすが、判例では当然には認められていない。
弁護士
江口 正夫