住宅売買契約における手付解除とクーリングオフ

1. 住宅売買契約における手付

住宅用土地付建物売買契約を締結する際に、併せて手付契約を締結することも多く行われています。買主が住宅用土地付建物売買契約の拘束から免れたいと考える場合に、手付解除の主張があります。

売買契約は口頭により成立する「諾成契約」ですが、手付契約は手付の交付によって効力が生ずる契約ですので(改正民法第557条1項)、法的には「要物契約」に該当します。

【改正民法第557条】

買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

もっとも、手付による解除は無条件にできるわけではなく、契約の相手方が履行に着手すると、手付による解除はできなくなります(最判昭和40年11月24日)。一般的には、売主が買主よりも前に履行に着手するという事態はそれほど多くはありませんが、仮に、売主が契約の履行に着手した場合には、買主は手付金を放棄しても売買契約を手付契約に基づき解除することはできなくなります。

しかしこの場合でも、買主は、売主が宅地建物取引業者である場合には、クーリングオフ制度に基づいて売買契約の解除をすることが可能です。クーリングオフ制度は特定商取引法の規定が知られていますが、宅地建物取引業法にも規定があるのです(宅地建物取引業法第37条の2)。クーリングオフ制度が利用できるのは、(1)宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買であること、(2)当該宅地建物取引業者の事務所その他国土交通省令・内閣府令で定める場所以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした買主であることが要件です。

【宅地建物取引業法第37条の2第1項】

宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について、当該宅地建物取引業者の事務所その他国土交通省令・内閣府令で定める場所(以下この条において「事務所等」という。)以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主(事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く。)は、次に掲げる場合を除き、書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除(以下この条において「申し込みの撤回等」という。)を行うことができる。この場合において、宅地建物取引業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

  • 一 買受の申込みをした者又は買主(以下この条において「申込者等」という。)が国土交通省令・内閣府令の定めるところにより、申込みの撤回等を行うことができる旨及びその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げられた場合において、その告げられた日から起算して8日を経過したとき。
  • 二 申込者等が、当該宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払つたとき。

したがって、宅地建物取引業者が自ら売主となる場合、売買契約は①ローン特約による解除等と②手付による解除のほか、一定の条件を満たす場合③クーリングオフによる解除があります。

クーリングオフの期間は8日間とされていますが、これは売買契約締結日から8日間という意味ではなく、上記のとおり、買主が売主である宅地建物取引業者からクーリングオフにより契約の解除ができること及びその方法の説明を受けたときは、その説明を受けた日から8日経過すれば契約の解除ができなくなるということに過ぎません。

よって、買主が宅地建物取引業者の事務所その他国土交通省令・内閣府令で定める場所以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした場合には、売主である宅地建物取引業者が買主にクーリングオフ制度を説明していなかった場合は、買主はクーリングオフによる契約の解除は制限されないことになります。

弁護士
江口 正夫