1. はじめに
土地付き建物の売買契約締結後、引渡し・登記移転の前に売主業者に破産手続開始決定が出されるという場合があり得ます。このような場合に、買主は当初の目的のとおり、土地付き建物の所有権を取得し移転登記を受けることができるのかという点についての正確な知識を持つことは重要なことです。
2. 売買契約における所有権の移転時期
民法は、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」(民法176条)と定めており、民法上は売買契約締結と同時に所有権は買主に移転するのが原則とされています。しかし、所有権がすでに買主に移転しているといっても、売主が破産した場合、破産管財人に買主が所有権を取得したことを主張するためには、民法177条に従い、買主が移転登記を受けていなければなりません。引渡し・移転登記前には、買主はそもそも所有権を破産管財人に対抗できません。
また、実際の売買契約では、売買の目的物は、買主が、引渡し・移転登記を受けるのと引換えに代金を全額支払った場合に移転すると定められています。したがって、引渡し・移転登記の前に買主が代金を支払って所有権を取得することは稀なことですから、通常は買主は未だ土地建物の所有権を取得していない時期です。
3. 売主の破産手続開始 決定後の手続き
売主に破産手続開始決定が出された場合、売主が引渡し・登記移転義務を未履行の場合は、通常は買主も代金支払義務の履行は未だ終了していない状態で、双方未履行の状態にあります。破産法53条は、双務契約において破産者 (売主)とその相手方(買主)が共に未だ履行を完了していないときは、「破産管財人は、契約の解除をするか、または破産者の債務(売主の債務である引渡し・登記移転)を履行して、相手方の債務(買主の代金支払債務)の履行を請求することができる。」と定めています。
つまり、売主が破産した場合には、売買契約を履行するか、それとも売買契約を解除するかは破産管財人が決定すると定められているのです。破産者の相手方(本件では買主)には、売買契約を解除するか、履行を求めるかの選択権は認められていないことに注意する必要があります。
4. 買主のとり得る手段
破産法では、破産者の相手方は、破産管財人に対し、相当な期間を定めて、解除と履行のいずれを選択するかを確答するよう催告をすることができるものとされています(破産法53条2項)。破産管財人が相当期間内に履行を選択すれば、買主は土地建物の所有権を取得することができますし、破産管財人が解除を選択するか相当期間内に確答をしなかった場合は、売買契約は解除したものと扱われます。
契約が解除され、解除によって買主に損害が生じた場合には、買主はこの損害賠償請求権を破産債権として権利行使することができます(破産法54条)。
江口 正夫