買主の資力と不動産業者の責任範囲

1. 不動産売買契約と買主の資力

不動産業者を介して土地・建物の売買契約を締結したものの、買主に十分な売買代金の支払能力がなかったために売買契約を解除せざるを得ないという場合があり得ます。その場合に、売主は、当該売買契約を仲介した不動産業者に対し、代金支払能力の十分ではない買主を紹介したということを理由に、不動産業者の責任を問うことができるのでしょうか。

2. 不動産業者の法的責任の内容

不動産仲介業者と依頼者との仲介契約は、委任契約に準ずる契約であると考えられています。委任契約においては、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」(民法第644条)と定められています。不動産仲介契約において、受任者というのは不動産仲介業者がこれに該当します。つまり、不動産業者は「委任の本旨」に従って委任事務を処理する義務を負います。不動産仲介契約における「委任の本旨」とは、「不動産売買契約が支障なく履行されて、契約当事者双方が契約の目的を達成できる」ということになります。このため、仲介業者は、不動産に関する専門業者として、売主が物件の正当な権利者であるか否か、売買目的物に設定されている権利の種類・内容・登記の有無等、都市計画法や建築基準法等の法令による制限の有無及び内容、私道負担や、電気・ガスや排水施設の整備状況、売買目的物の瑕疵の有無及び内容等、種々の事項についての調査・説明義務を負っています。宅地建物取引業法が、宅地建物取引業者に対し、宅地建物取引を行うに当たり、宅地建物取引士をして一定の事項を説明させる義務を課しているのは、このためです。

しかし、仲介業者の上記の義務は不動産の専門業者として不動産仲介業務を行うにあたって課せられる義務であり、売買目的物に関連する事項についての調査・説明義務は不動産仲介業者に課せられていますが、これとは関係のない事項、例えば買主の人柄であるとか、買主の資力などといった事項については、取引当事者自らが調査すべき事項であると考えられ、格別に不動産仲介業者が説明すべき事項とはいえないことになります。

それでは、例外的に、買主に資力がなかった場合に不動産仲介業者が責任を問われる場合があるとすれば、どのような場合でしょうか。例えば、売主の義務である所有権移転登記を買主の代金支払に先行して行うという内容の売買契約を締結させて売買目的物の登記は買主に移転したものの、買主に代金を支払うだけの資力がなく売主に損害が発生するような場合です。この場合は、買主の資力についての調査義務があるというよりも、通常は所有権移転登記と売買代金の支払は同時履行とすべきところを、所有権移転登記を先履行としながら、買主に相当の担保を提供させるなどの当事者双方が契約の目的を達成できるような配慮を怠っていたということが問題となるものです。

弁護士
江口 正夫