住宅売買契約を締結した後の居住環境の変化

1. 住宅の売買契約と居住環境の変化

一般に住宅を購入する際には、購入者は現地に赴き土地建物の位置、形状や間取り等の物件自体の状況を確認すると同時に、日照や景観、静謐であるか否か等の周辺の環境にも気を配って当該物件を購入するか否かを決定しているはずです。

それにもかかわらず、購入した不動産について、通常の品質を有しない不具合が存在していた場合で、それが買主にとって契約締結当時、通常の注意を払っても知ることのできないような「隠れた瑕疵」に該当する場合は、買主は売主に対し、瑕疵担保責任の規定に基づき損害賠償を請求することができますし、当該瑕疵の存在によって売買契約を締結した目的が達成できない場合には、売買契約を解除することができます(民法570条、同566条)。この場合の「瑕疵」に売買対象物件のおかれている居住環境上に問題があったことが含まれるか否かは議論のあるところです。

(1) 瑕疵担保責任の成否

瑕疵担保責任における「瑕疵」に売買対象物件のおかれている居住環境上に問題があったことが含まれるとしても、民法の瑕疵担保責任は、契約の「原始的瑕疵」の場合、つまり契約締結の時点で瑕疵が存在していた場合の規定です。

したがって、契約締結当時は購入した不動産の周辺環境は景観等の面で問題がなかったものの、買主が土地建物の引き渡しを受けた後、相当期間が経過してから隣接地にビルが建築されたために景観が悪化したという場合には、契約締結時には瑕疵が存在していないため、原則として、瑕疵担保責任の問題とはなりません。

(2) 債務不履行の成否

それでは、売買契約締結後に生じた事情は、契約違反の問題となるかといえば、売主は、格別の合意がない限り、買主に対し、売買契約締結当時の良好な居住環境を将来にわたって保証するものではありませんので、売主に契約違反の責任が生ずるわけでもありません。

しかし、売買契約締結後に周辺環境の変化があった場合でも、一定の条件が満たされた場合には、買主が当該売買契約を取り消すことができる場合があります。それは売主が事業者、買主が消費者という消費者契約の場合の「不利益事実の不告知」に該当する場合です。

住宅の売買契約締結後の居住環境の変化は原則として瑕疵担保責任の問題とならないが、例外(消費者契約の場合)として、不利益事実の不告知に該当する場合は売買契約の取消ができます。

2. 不利益事実の不告知

消費者契約法では、事業者が消費者との間で消費者契約の締結を勧誘するにあたり、消費者に利益となる事実を告げ、これと裏腹の不利益となる事実を故意に告知しなかった場合には、消費者は当該消費者契約を取り消すことができる旨を定めています。

例えば、事業者である売主が消費者である買主に対して、当該物件が景観が良好であることを強調して売買の勧誘を行った際に、売主が隣地にビルが建つ予定であって、これにより良好な景観が失われるという事実を知りながら、この事実を買主に告知することなく売却したという場合には、景観が良好であるという消費者に利益となる事実を告げながら、その裏腹の事実である景観が近い将来において悪化するという消費者に不利益な事実を告知しなかったということになります。

このような場合は、消費者契約法により、消費者である買主は、いわゆる「不利益事実の不告知」を理由として売買契約を取り消すことができます。

弁護士
江口 正夫