建売住宅の欠陥と買主の対応策

1. 建売住宅の売買契約と建物の欠陥

建売住宅を購入後6か月程度で不具合が生じたというような場合には、もともと売買契約締結の時点、ないしは引渡前の段階で、すでに建物には不具合が生ずるような欠陥が存在していたことがうかがわれます。このように、売買契約を締結した場合に、その売買の目的物が通常有すべき品質を有していないなどの欠陥があった場合、その欠陥を「契約不適合」といい、売主は、買主に対して「契約不適合責任」を負わなければならない場合があります。

契約不適合責任の内容は、(1)売主に責めに帰すことのできる事由があれば買主に対して損害賠償義務を負うこと、(2)修補請求、(3)修補等の追完を相当期間を定めた催告による契約解除、(4)相当期間を定めた催告をしたにもかかわらず追完されない場合の代金減額請求権が認められることの4つです。

契約不適合責任の内容は3点。1.売り主の買い主に対する損害賠償義務。2.修補請求。3.相当期間を定めた催告による契約解除。4.催告したにも関わらず追完されない場合の代金減額請求

2. 契約不適合責任の発生要件と法的効果

(1) 契約不適合とは何か?

契約不適合とは、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」ことをいいます。改正前民法の下で、「瑕疵」とは、「当該売買契約締結当時の取引観念上、その種類のものとして通常有すべき品質・性能、又は当該売買契約に基づき特別に予定されていた品質・性能を欠くこと」であると判断されてきました(最判平成22年6月1日)。この判例の定義からすると、契約不適合とは従来の判例上認められてきた瑕疵概念とほぼ同様の内容であると考えて問題はないと思います。ただし、「契約の内容」に適合しているか否かが問われる以上、売買契約において目的物の種類又は品質についてどのような定めをしているかにより、契約不適合責任の存否に関する判断が変わることも想定されるところです。

(2) 契約不適合は「隠れた」ものであることが必要か

改正前民法の瑕疵担保責任においては、瑕疵が「隠れた」ものであることが要件とされていました。従って、瑕疵担保責任を追及できる買主は、当該瑕疵について善意無過失であることが要求されていました。しかし、契約不適合責任においては、「隠れた」という概念は直接の要件とはされていません。要は、引き渡した目的物が契約の趣旨に適合しているか否かにより判断されることになります。

(3) 売主の帰責事由の要否

改正前民法の瑕疵担保責任においては、売主の無過失責任とされていました。しかし、改正民法の契約不適合責任は、債務不履行の一場面ということになりますので、債務不履行の要件に従うことになります。

  1. 契約不適合を理由とする損害賠償は売主の帰責事由が必要
    改正民法では、債務不履行を理由とする損害賠償は債務者の帰責事由が必要とされています。従って、契約不適合を理由とする損害賠償は、改正前民法の瑕疵担保責任としての損害賠償とは異なり、売主に帰責事由が必要となります。
  2. 契約不適合を理由とする解除は帰責事由不要
    改正民法では、債務不履行を理由とする契約解除には債務者の帰責事由は不要とされました。従って、契約不適合を理由とする契約解除は、改正前民法の瑕疵担保責任としての契約解除と同様に、売主に帰責事由がない場合でも解除が認められます。
  3. 契約不適合を理由とする修補請求
    修補請求は、債務の本来の履行を求める請求ですから、売主には帰責事由が認められない場合でも請求することが可能です。
  4. 代金減額請求
    代金減額請求は、損害賠償請求ではなく、不適合の程度に応じた代金の減額を求めるものですから、売主に帰責事由が認められない場合でも請求することが可能です。

(4) 契約不適合責任の存続期間

改正前民法における瑕疵担保責任は、債務不履行責任ではなく、物件に瑕疵が存在することに伴い法律が認めた特別の責任(法定責任)であると考えられており、損害賠償請求権、解除のいずれも買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならないとされていました。「1年以内にしなければならない」の対象は「契約の解除又は損害賠償の請求」ですから、1年以内に損害賠償請求や契約の解除をしなければならないという意味であり、この期間は一般的には除斥期間と解されています。

改正民法の契約不適合責任は、瑕疵担保責任のような法定責任ではなく、債務不履行責任の一場面ですから、債務の消滅時効に関する一般原則(権利を行使し得る時から10年、権利を行使し得ることを知った時から5年)にのみ従うのか、それとも、これに加えて瑕疵担保責任と同様に短期の期間制限を設けるかが問題となるところですが、改正民法は短期の期間制限を規定しました。

改正民法では、契約不適合責任の存続期間は、買主が、「種類又は品質に関して」契約不適合を知った時から1年以内に「その旨を売主に通知」しない限り、履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び解除権の行使ができないと定めています(改正民法566条)。

まず、注意すべきことは、契約不適合責任を定めた改正民法562条では目的物が「種類、品質又は数量」に関して契約の内容に適合しないものであるときと定められているのに対し、期間の制限を定めた上記改正民法566条では「種類又は品質」に関して契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合とされており、1年の期間制限の対象から「数量に関して」の不適合が除外されていることです。従って、数量不足などの場合は、専ら消滅時効の原則である「権利を行使することができる時から10年間、権利を行使することができることを知った時から5年間」というルールに従うことになりますので、注意が必要です。

また、改正前民法の瑕疵担保責任では、前述のとおり、1年以内に損害賠償請求権あるいは解除権を行使しなければなりませんでしたが、改正民法の契約不適合責任の場合は、改正民法566条に記載のとおり、契約不適合の事実を売主に通知すれば権利が保全されることになる、という点で改正前民法のルールとは異なることになります。

(5) 住宅の品質確保の促進等に関する法律による特例

改正民法に伴い、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」といいます。)も改正され、改正民法の契約不適合責任と同じく「隠れた」の要件は削除されましたが、「瑕疵」の用語はそのままとし、「瑕疵」の定義を「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態」をいうものとし、買主は、履行追完請求権、代金減額請求権、損害賠償、解除をすることができるものとしています。

3. 改正民法の適用

改正民法では、改正民法施行日である2020年4月1日前に契約が締結された場合は改正前民法が適用され、それ以降に契約が締結された場合は改正民法が適用されることを原則として定めています(改正民法附則34条1項)。

参考条文

【改正民法第566条】(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

【改正民法附則第34条1項】
施行日前に贈与、売買、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお、従前の例による。

弁護士
江口 正夫