買主の代金支払債務の不履行と売主の対応策

1. 売買契約における履行の確保手段

土地・建物の売買契約を締結すると、売買契約の効力として、売主は、買主に対し、土地・建物の引渡義務と所有権移転義務、移転登記義務を負い、買主は売買代金支払義務を負います。

仮に、売主は約定の決済期日に土地建物の引渡し・所有権移転・移転登記についていつでも行える状態にして買主に売買代金の支払いを求めたにもかかわらず、買主が約定の期日までに売買代金を支払わなかった場合、売主にはどのような対応手段があるでしょうか。一般的には、売主の買主に対する代金債権を確保するための手段としては、主たるものとして、以下の4つの方法があります。

(1) 同時履行の抗弁権(改正民法第533条)

改正民法第533条は、「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。」と定めています。これを同時履行の抗弁権といいます。この規定により、売主は、原則として、買主が代金の弁済を提供するまで土地建物の引渡し・移転登記等を拒むことができます。

(2) 違約金

当事者が債務の不履行をした場合に備えて、売買契約書上に違約金を定めておけば、契約に違反すれば違約金を支払わなければならないという心理的な強制が働き、契約期日を遵守させるという事実上の効果が期待できます。宅地建物取引業者が自ら売主となる場合には、買主が消費者の場合であっても売買代金の20%までの違約金を約定することが可能です(宅地建物取引業法第38条)。

(3) 不動産売買の先取特権

民法第328条は「不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。」と定め、第303条は「先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」と定めています。この規定は、不動産の売主に他の債権者に先立って売買代金と利息の弁済を優先的に受ける権利を認めるものですが、民法第340条は「不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。」とされ、登記をしておかないと優先弁済権を行使できません。このため、実務ではあまり見かけませんが、買主の支払能力に疑義がある場合に活用し得る法的手段が認められていることになります。

(4) 買主の財産に対する強制執行

契約を締結した以上、当事者は契約を守らなければなりません。したがって、買主が約定の期日に売買代金を支払わなければ、売主は、裁判所に訴えを提起して、買主に売買代金を支払えとの判決を得ることができます。その判決が確定すれば、売主はその判決に基づいて強制執行を申し立て、買主の財産(例えば、買主の銀行預金や給料、その他の財産)を差し押さえ、強制的にそれらの財産から売買代金の回収を図ることができます。
弁護士
江口 正夫