不動産売買契約の解除が認められる場合

1. 契約の解除とは何か

契約の解除とは、契約が有効に成立した後に、契約を締結した当事者の一方からの意思表示によって、契約関係を契約締結時にさかのぼって解消することをいいます。

解除は、有効な意思表示がなされて契約が有効に発生した後に、当事者の一方のみの意思表示によって契約を消滅させてしまう制度ですから、一定の原因(解除原因)が認められなければ解除は認められません。

例えば、土地建物の売買契約を締結した後に、より高値で買い取りたいという客が現れたために、売主が従来の売買契約を解除したいと言っても、その場合には、特別に解除原因が売買契約書に規定されていない限り、解除はできないということになります。

したがって、不動産売買契約の解除原因として、何と何が認められているかを認識しておく必要があります。

2. 不動産売買契約の解除原因

不動産売買契約の解除原因は2点。民法で定める解除原因と当事者間で合意した解除原因。
民法では、売買契約の解除原因として、(1)契約の相手方の債務不履行を理由とする解除と、(2)手付による解除、(3)担保責任による解除などが定められていますが、これ以外にも契約で当事者が解除原因をあらかじめ定めておくことも可能です。

(1) 債務不履行を理由とする解除

債務不履行には3つの形態があります。1つは、契約の履行が可能であるのに契約の相手方が履行期日に債務を履行しないという場合で、「履行遅滞」といわれるものです。2つ目は、履行期日にとりあえず履行はなされてはいるが、その内容が不十分なものであった場合で、「不完全履行」といわれます。3つ目は、履行が不可能となってしまった場合で、「履行不能」といいます。改正前民法とは異なりいずれの場合も、債務不履行につき相手方に責に帰すべき事由は必要ありません。

不動産売買契約でよく問題となるのは、前記のうちの「履行遅滞」です。例えば売買契約の決済期日に、買主が売買代金を支払うことができない場合や、売主が移転登記を行うことができない場合などがこれに該当します。履行遅滞があった場合は、直ちに契約の解除が認められるわけではなく、原則として、相手方に対して相当の期間、通常は1週間前後を定めた催告をし、催告期間内に債務の本旨に従った履行がなされなかった場合に初めて解除ができることになります。

(2) 手付による解除

不動産売買契約においては、契約締結時に手付金として代金額の1割程度の金銭が支払われることがあります。手付金は種々の目的で授受されますが、一般的には売買代金の一部前払いではなく、解除権を留保するために授受されていることが多いようです。この場合の手付を「解約手付」といい、「解約手付」が授受されている場合には、契約当事者はいずれの側も、相手方が履行に着手するまでは手付を放棄し、あるいは倍返しをすることによって契約の解除が可能となります。手付を授受した目的が不明である場合には、「解約手付」と推定されることになります。

(3) 契約不適合責任による解除

売買契約においては、売主に契約不適合責任が認められ、買主側に解除権が発生する場合があります。基本的には売買契約の内容が予定どおりに実現できない場合をいい、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものである場合がこれに該当します。
この契約不適合責任を理由とする解除は、売主の責に帰すべき事由は要件とされていないので注意が必要です。

弁護士
江口 正夫