借地権付住宅分譲と地主の承諾

1. 借地権付住宅分譲契約

一般に、住宅分譲というと、分譲住宅建物とその敷地の所有権が売買の対象となることが多いのですが、土地の所有権ではなく、借地権に基づいて住宅が建設され、その建物と借地権とを一緒に売りに出すことも行われています。土地の所有権とともに住宅を購入する場合に比べ、借地権とともに住宅を購入するほうが販売価額が低額になるからです。特に一般の借地権よりも、契約で定めた期間の満了により借地権が終了する定期借地権を用いた住宅分譲(これを「定期借地権付住宅分譲事業」といいます)の場合には、土地所有権を購入するわけではないため、土地の所有権価額を支払う必要はなく、(1)権利金は土地価額の1~2割程度、(2)権利金は必要なく土地価額の1~3割程度の保証金、(3)前払地代として一時金を交付する、いずれかの形式で売買が行われますので、定期借地権付住宅分譲の場合には、土地に要する資金が所有権に比べ約7~9割のディスカウントとなります。

2. 借地権の譲渡に必要な手続き

借地権付分譲事業は、1つの方法として、デベロッパーや住宅メーカー等が土地所有者との間で借地契約を締結し、その借地権に基づき事業者が分譲住宅を建築し、デベロッパーや住宅メーカーが借地権とともに住宅を分譲する形式がとられることがあります。ここで注意しておくことは、借地権の譲渡には、貸主の承諾が必要なものと、不要なものとがあるということです。借地権とは建物の所有を目的とした土地賃借権と地上権をいい、民法上、賃借権を譲渡するには賃貸人(地主)の承諾が必要とされていますが(民法612条1項)、地上権は自由譲渡性があり、貸主の承諾は不要とされています。

借地権

◎賃借権=
譲渡には貸主の承諾が必要

◎地上権=
譲渡には貸主の承諾は不要

3. 貸主の承諾が得られない場合の対応方法

それでは、賃借権方式の借地権付分譲住宅の場合に、せっかく気に入った物件が見つかったのに貸主の承諾が得られないという場合には、購入を諦めざるを得ないのでしょうか。賃借権の場合には、貸主の承諾を得ることなく賃借権を譲渡(いわゆる「賃借権の無断譲渡」)すると、原則として、貸主は賃貸借契約を解除(民法612条2項)することができますので注意しなければなりません。

(1) 裁判所の許可制度

ところが、借地借家法19条1項では、このような場合、賃借権の譲渡人は裁判所に申し立てて、借地権設定者の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができると定めています。裁判所の許可があれば、貸主が賃借権の譲渡を承諾しなくとも、無断譲渡として賃貸借契約を解除されることはなくなり、適法に賃借権を譲渡することができます。この場合には、裁判所は、賃借人に対し、いわゆる譲渡承諾料として、借地権価額の10%程度の金銭を貸主に支払うように命じることが多いと思われます。

(2) 貸主の介入権

ただし、裁判所の許可が常に得られるとは限らず、貸主が裁判所に当該賃借権を適正価額で買い取る旨の申立てをしたときは、裁判所は貸主への売渡しを命ずることとなっています。

借地権付建物の分譲は、借地権の種類が賃借権である場合には、上記の手続きを履践する必要があることを銘記しておくことが重要となります。

弁護士
江口 正夫