売買契約締結後の売主側の過失による建物の滅失

1. 危険負担と債務不履行の区別

住宅用の土地建物の売買契約を締結した後に、売買の目的物の1つである建物が、売主業者側の過失により焼失した場合にどうなるかを確認しておきます。この場合は、いわゆる「危険負担」の問題ではありません。

危険負担とは、債務者の責に帰すことのできない事由によって滅失し、または毀損した場合に、その滅失または毀損の危険を、売主、買主のいずれが負担するかという問題です。例えば、売買契約締結後に震度7程度の大規模地震により建物が滅失した場合、売主の建物所有権移転債務は、債務者である売主の責に帰すことのできない事由による履行不能により消滅しますが、その反対債権である買主の売買代金支払債務が消滅するか否か、という問題が危険負担の問題です。ちなみに、改正民法536条では、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、買主は代金の支払いを拒むことができるものとして、履行拒絶権を認めています。

これに対して、売主側の過失で建物が滅失したという場合は、危険負担の場合のように「債務者の責に帰すことのできない事由によって滅失」した場合に当たらず、「債務者の責に帰すべき事由により滅失」した場合です。これは、債務者の責に帰すべき履行不能ですから、債務不履行の一場合となります。

2. 売主の過失による建物の焼失の場合の買主側のとり得る手段

(1) 売買契約は存続させたままでの損害賠償請求

これは、売主の債務不履行の一場合ですから、債務不履行に基づく損害賠償請求権となります。買主としては、建物の引渡を受けていれば得られたであろう利益の全部について損害賠償することができます。例えば、土地の代金が2,000万円、建物の代金が1,000万円の合計3,000万円の代金の売買契約で手付金を300万円支払っている場合に、売主の過失で引渡前に建物が滅失すれば、買主は本来であれば手付金を除いた2,700万円を支払い、その時点で手付金を売買代金に充当して土地建物を得られたわけですが、建物の損害が仮に1,000万円とすると、これを残代金の2,700万円の支払義務と相殺して1,700万円を支払って土地を取得することになります。

(2) 履行不能を理由とする契約の全部解除

改正民法542条1項では、債務の全部の履行が不能であるとき又は一部の履行が不能である場合に残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないときは催告を要することなく、直ちに契約の解除(無催告解除)をすることができる。と定めています。したがって、買主は、土地建物売買契約のうち、建物のみの履行が不能になったことを理由に、土地建物売買契約の全部を解除することができます。契約の解除により、売主、買主はともに原状回復の義務を負います。買主は支払った手付金300万円の返還請求ができますが、その場合には、売主が手付金を受領したときから年3%の割合の金銭を付加して請求することができます。

(3) 履行不能を理由とする契約の一部解除

改正民法542条2項は、債務の一部の履行が不能であるときは、債権者は催告をすることなく直ちに契約の一部を解除することができる。と定めています。したがって、買主は、契約の全部解除のみではなく、契約の一部解除も可能です。土地建物の売買契約の場合に、土地は取得して、建物に関する部分の契約だけを解除することができます。
弁護士
江口 正夫