繰上げ返済の可否を判断する際のポイントとは?

ご質問

住宅ローンの繰上げ返済をすると金利負担が軽くなり、有利と聞きました。ただし、繰上げ返済をすると手元資金が減ってしまうため、損をする気もします。 繰上げ返済をする、しないを判断する際のポイントについて、アドバイスをいただけないでしょうか?

回答

期間短縮型のほうが返済額軽減型よりも効果的

住宅ローンの繰上げ返済は、通常の返済とは別に、元本の全部または一部を予定時期よりも早く返済することをいいます。繰上げ返済には、毎回の返済額はそのままで、返済期間を短縮する「期間短縮型」、返済期間はそのままで、毎回の返済額を軽減する「返済額軽減型」の2つがあります。
「期間短縮型」は早く返済を終了したい場合に効果的、「返済額軽減型」は毎月のやりくりを改善したい場合に効果的です。単純に金利軽減効果だけで比べると、「借入残高が減り」、「返済期間も短縮される」期間短縮型のほうが、「借入残高は減少するが返済期間は変わらない」返済額軽減型よりも金利軽減効果が大きくなります。
しかし、金利負担が軽減されるから、という理由だけで繰上げ返済をお勧めすることはできません。それは、ご本人やご家族のライフプラン、今後の収入、ライフイベント、健康状態等を総合的に考えて判断すべきだからです。今回は、筆者が、お客様から繰上げ返済のご相談を受ける際にアドバイスするポイントをご紹介します。

1. 余裕資金は? 近い将来、大きなライフイベントは?

毎月の生活資金や近い将来(概ね5年以内)のライフイベント資金は手元に残し、安全に運用すべきと考えます。このような性格の資金まで繰上げ返済に充てると、目先の金利負担は軽減されますが、想定外の事態が起こり、消費者ローンやカードローン等の高金利のローンを利用することになっては、かえって家計の負担が増えてしまいます。
毎月の生活資金は概ね3~6か月分程度、ライフイベントとしては自動車の買換え、海外旅行、子どもの教育資金等、貯蓄を財源として手当てする予定の資金などを全ての手元資金から差し引いたものが「余裕資金」、すなわち、繰上げ返済に充てられる財源と考えられます。

2. 投資は?

余裕資金は、繰上げ返済に充てるだけでなく、投資して収益をあげることもできます。株式や投資信託に投資をして収益をあげる、外貨に投資をして円安による利益を得る等の方法が考えられます。もちろん、投資にはリスクがあり、必ずしも儲かるわけではなく、想定外に大きな損失を被る可能性もありますが、「金利」「株式」「外国為替」「不動産」「商品」の相場の環境がよければ、繰上げ返済をするよりも投資するほうがよい、という判断もあり得ます。
ただし、「投資に興味がない」「投資環境がよくない」場合は、繰上げ返済で金利負担を軽減するほうがよいかもしれません。

3. 資金管理能力は?

余裕資金があると、ついつい日頃から欲しかったものを買ってしまいますね。これはこれで幸せの1つの形だと思いますが、将来の住宅ローン返済が不安を抱えたまま、分不相応にお金を使いすぎてしまうことも1つのリスクです。
手元に資金があっても、「適度に使い」、「適度に運用できる」資金管理能力があれば、心配ないのですが、無駄遣いしがちな方、無駄遣いを心配する方は、繰上げ返済によりローン残高を減らすほうが安心といえそうです。

4. 収入は?

住宅ローンは固定支出ですので、長期にわたり、返済していける固定収入、安定収入が見込めないと不安です。その点、サラリーマン(正社員)であれば、一定の固定収入、安定収入が見込まれますので、余裕資金を繰上げ返済に充ててよいかもしれません。
ただし、勤務先の業績が赤字である、ボーナスが減った等の事情がある場合は、余裕資金があっても、繰上げ返済は慎重に判断すべきでしょう。
一方、自営業者は家計費だけでなく、事業用資金も考慮する必要があります。事業収支の悪化、売掛金の回収遅延、仕入れ代金の高騰など、資金繰りが悪化した場合のことを考えると、繰上げ返済は慎重に検討したいところです。
また、契約社員、派遣社員等、安定した職業環境ではない場合も、自営業者と同じように生活資金の確保を優先すべきと考えます。

5. ローン残高は?

ローン残高が多ければ、繰上げ返済による金利軽減効果も大きいですが、ローン残高が少なければ、繰上げ返済による金利軽減効果も小さいため、あえて繰上げ返済をする必要性は低いと考えます。退職金で住宅ローンを返済する、という方も多いのですが、ローン残高が少なければ、繰上げ返済せずに毎月貯蓄額を取り崩して返済するということも1つの選択だと考えます。

6. 金利は?

借入金利が高ければ、繰上げ返済による金利軽減効果も大きいですが、借入金利が低ければ、繰上げ返済による金利軽減効果も小さくなります。
また、変動金利型の場合、金利が上昇すると金利負担が大きくなりますので、金利が上昇してきたら繰上げ返済を実行する、という選択もよい方法です。

7. 残りの返済期間は?

残りの返済期間が長い場合は、期間短縮型の繰上げ返済を実行すると金利負担がかなり小さくなりますが、残りの返済期間が短い場合は、期間短縮型の繰上げ返済を実行しても金利軽減効果は小さいため、残り数年程度であれば、繰上げ返済をせずに貯蓄を取り崩して返済する、ということも1つの選択だと考えます。
以上の「ローン残高」「金利」「残りの返済期間」の3つの条件により、金利軽減効果は変わりますので、実際には試算をしてその効果を確認し、判断することをお勧めします。たとえば、住宅金融支援機構の「住宅ローンシミュレーション」を活用してはいかがでしょうか?

住宅金融支援機構「住宅ローンシミュレーション」

8. 健康状態は?

ご本人またはご家族の健康状態に不安を抱えている方は、医療費の不安も大きいため、繰上げ返済よりも手元に資金を残しておく方が不安が小さくなります。また、通常、住宅ローンを借りると団体信用生命保険に加入しますが、債務者が死亡・高度障害になった場合、ローン残高はその保険から支払われますので、遺族は借入金の返済負担がなくなる点でも繰上げ返済の重要性は低いと考えられます。
住宅ローンは長期にわたる固定費ですが、繰上げ返済で改善できる支出でもあります。家計や家族のライフプラン等を総合的に考えて上手に繰上げ返済を活用していきたいものですね。

ファイナンシャルプランナー 益山 真一