親との同居と「小規模宅地等の特例」

B様のご質問

実家の近くにマイホームを購入しようとしたところ、「相続税の対策にもなるから」との理由で、親から実家を建て替えての同居をもちかけられました。「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(小規模宅地等の特例)」の適用を受けたいとのことですが、どのような制度なのでしょうか。
また、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(非課税の特例)」を利用して、建て替えのための資金贈与を受けることも検討しています。
状況は、次のとおりです。

  • 同居するにあたって、実家を建て替える予定。土地は親の所有。
  • 建て替えにあたっては、ローンを組む予定。ある程度は資金贈与を受けることも可能。
  • 家族関係は下図のとおり。
B様の家系図

回答

「小規模宅地等の特例」や「非課税の特例」は、相続税の節税に有効な制度です。しかしB様には、弟様がいらっしゃる様子。節税対策ばかりにとらわれて、相続財産の分割対策をおろそかにすると、将来の争いの火種をつくることにもなりかねません。ご質問にある節税対策とあわせて分割対策についても考えましょう。

相続税の節税対策

1. 小規模宅地等の特例

相続税がかかりそうだからと、親との同居を考える人は少なくありません。同居するなど一定の条件をクリアすると、相続税の計算をするにあたって、土地の評価額を減額できるからです。これを「小規模宅地等の特例」といいます。

上記で小規模宅地等の特例の適用があれば、土地の評価額は、330m²を限度に80%減額されます。例えば土地の評価額を5,000万円とすると、最大で4,000万円もの評価減を受けられるということです。特例適用の有無が、相続税の計算に与える影響が少なくないことがわかるでしょう(表1を参照)。

ところで2014年1月1日以降、二世帯住宅において完全分離型でも小規模宅地等の特例の適用ができるようになりました。しかし区分所有登記には注意を要するなど、税の制度は複雑です。あらかじめ税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

表1 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の減額割合

限度面積 減額割合
330m² 80%

2. 贈与税の非課税

次に、「非課税の特例」についてです。非課税の特例は、2021年12月31日までの間に、父母や祖父母などの直系尊属から、マイホームの新築資金などの贈与を受けた場合に、一定条件のもとに贈与税が非課税になる制度です。

贈与を受ける人ごとの非課税限度額は、表2のとおり契約の締結日、消費税率、住宅の種類に応じた金額になっています。例えば、2018年12月に請負契約を結ぶ場合の非課税限度額は、住宅の種類に応じて1,200万円、もしくは700万円です。

表2 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置限度額

契約年 消費税率 左記以外
省エネ等住宅 左記以外の住宅 省エネ等住宅 左記以外の住宅
2016年1月~2019年3月 1,200万円 700万円
2019年4月~2020年3月 3,000万円 2,500万円 1,200万円 700万円
2020年4月~2021年3月 1,500万円 1,000万円 1,000万円 500万円
2021年4月~2021年12月 1,200万円 700万円 800万円 300万円

※消費税率8%の適用を受けた場合のほか、個人間売買により中古住宅を取得した場合。

贈与を受ける場合、そのタイミングに注意しましょう。原則として、贈与の年の翌年3月15日までに、贈与を受けたお金を支払いに充てることや、その住宅に住むことといった条件があるからです。繰り返しになりますが、税の制度は複雑です。場合によっては税理士に相談するなど、慎重を期してください。

相続時の遺産の分割対策まで視野に入れる

相続財産の分割対策にも配慮したいところです。例えば、建て替えのための資金贈与を受けることで、相続財産の分割でもめる可能性があるようなら、「建て替えにあたって資金の贈与を受けない」という選択もあるでしょう。

相続がおきたときの分割をスムーズにするために、「親に遺言書の作成をお願いする」のも一案でしょう。「うちは兄弟仲がいいから」とおっしゃる方もありますが、仲がいいのであればなおさら、その関係性を壊さないですむようにしておきたいです。

(注)税制については、2018年12月時点の内容で記載しています。

ファイナンシャルプランナー 久谷 真理子