さまざまな住宅ローン(空き家関連ローン)

空き家の現状と「空き家対策特別措置法」

人口の減少を背景に、空き家の増加が全国的に大きな社会問題になっています。
国土交通省によると、空き家の総数はこの20年で倍増し(表1)、2013年時点で空き家戸数は約820万戸、空き家率は全国平均で13.5%と、過去最高を記録しました。
このような状況を受けて施行されたのが「空き家対策特別措置法」(以下、特措法)です。
特措法では、倒壊の危険があるなどの問題がある空き家を「特定空き家」と位置づけています。その物件の所有者には修繕や撤去の指導・勧告・命令ができ、さらにそれに従わなかった者には行政が強制的に撤去し、かかった費用を持ち主に請求できる「代執行」の措置が取れることになりました。
また、特定空き家に指定されると、土地に対する固定資産税の軽減特例からも外されるため、土地にかかる固定資産税が最大6倍に跳ね上がることになります。
特措法は、具体的に市町村が行う施策までは定めておらず、基本方針を示しただけですが、これまで「放置したほうが得」と考えていた空き家の所有者は、待ったなしの対応を迫られることになるでしょう。

縦軸が戸数及び空き家率、横軸が年度、の空き家の種類別推移を表したグラフ。「二次的住宅」と「賃貸用または売却用住宅」と「その他の住宅」の3種類。グラフの出所は住宅・土地統計調査(総務省)。

バリエーション豊かな自治体の施策

各地方自治体においても、特措法の施行以前から、条例による空き家対策を行ってきました。
たとえば、豪雪地帯では雪掻きのできない空き家は即倒壊の危険があります。このような危険な空き家に対して、地方自治体の力で所有者に勧告・命令等をできるようにしたのが条例です。2014年3月30日現在、空き家に関する条例は全国で431あり、表2を見ると、特にここ数年で多くの条例が制定されていることがわかります。
このような空き家については、次のいくつかの対策が考えられます。
1つ目は解体です。老朽化が進み、今後住む予定が立たない家の場合に検討されますが、木造家屋で100〜200万円といわれる解体費の捻出が問題です。
2つ目は売却または賃貸です。立地によっては有効な手段ですが、改修をしないと市場に出すことが難しい物件も多々あります。
3つ目はその他の目的への転用です。例えばシェアハウスや介護施設、地域の交流の場としての活用が考えられますが、大がかりな改修が必要です。
このように、どの対策にしても所有者の自力だけでは難しいため、各地方自治体では様々な支援策を打ち出してきました。

縦軸が件数、横軸が年度、空き家管理条例の施行数を表した棒グラフ。特に2012年から2014年にかけて増加傾向にある。出所:国土交通省・すまいづくりまちづくりセンター連合会 「空き家住宅情報 地方公共団体等による取組み事例」から作成(注意:2014年3月30日時点で施行済みの条例が対象

空き家バンクと空き家支援策

一般社団法人移住・交流推進機構の調べによると、空き家の売却・賃貸を希望する所有者と物件を探す人とのマッチングを図る「空き家バンク」を開設している自治体は、都道府県レベルで約17%、市町村では約63%に及びます。
たとえば、栃木市では「あったか住まいるバンク」と題して、賃貸・売買が可能な空き家の登録を受けつけ、市のホームページ上で情報公開をし、利用希望者へ紹介するシステムを導入しています。そして、空き家バンクに登録された空き家のリフォームに対し最大50万円の補助を行うなど、空き家バンク制度の利用促進を図っています。
その他の自治体でも、移住希望者等に対する説明会やセミナーの開催、ウェブサイトの設置、移住体験プログラムツアーの実施など、空き家と移住希望者を結びつける試みなどが行われています。
また、空き家所有者や移住者への改修費補助などの助成金を用意している自治体もあり、ソフトからハードまで、実にバリエーション豊かな施策が取られているのです。
たとえば、群馬県高崎市では、増え続ける空き家を問題として、「空き家緊急総合対策事業」を2014年から開始しました。空き家を空き家のまま管理したいという人には空き家の管理費、空き家を解体したい人には解体費・解体跡地の管理費を助成。さらに、空き家を改修して賃貸に回したい人や、地域サロンとしての活用にもそれぞれ助成金を設けています。
法の整備を受けて、自治体ではより一層空き家への支援策が充実するものと思われます。

民間金融機関の「空き家関連ローン」が急増

特措法の施行以降、動きを見せたのが、地方銀行をはじめとする民間金融機関です。
各金融機関のホームページ等から調べた空き家関連ローン約40商品のうち、その多くが特措法が全面施行された2015年5月26日以降に発表されたものとなっています。法律の制定で、空き家の解体や改修の需要が高まると見た動きであることがわかります。

解体ローンと活用ローン

空き家関連ローンの種類は、大きく分けて解体ローンと活用ローンの2つがあります。
解体ローンは、その名の通り空き家解体工事費に対するローンのことです。ほとんどの商品は無担保で保証人不要。年金受給者でも借りられるなど、かなり利用しやすい条件になっています。自治体と提携しているケースも多く、提携自治体から補助金を受けている場合は金利を0.2~0.5%引き下げるなどの措置が取られているものもあります。

活用ローンは空き家の改修を対象としたものがほとんどですが、中には空き家を購入する人の購入資金に対するものや、防火・耐震、防災・防犯上の設備対策費、太陽光発電などの環境配慮型設備工事費にまで及ぶものもあります。

さらに大手銀行を中心に、既存のリフォームローンや無担保ローンの項目に「空き家解体」を含めたものも登場しています。また、中古住宅購入と併せて行うリフォーム工事について融資を受けられる住宅金融支援機構の「フラット35(リフォーム一体型)」も、2015年4月から運用を開始しています。

さらに、地元自治体の運営する空き家バンクと連携した移住者向けのローンなども誕生しており、今後も空き家関連のローンはバリエーションを広げながら増えていくでしょう。