住宅ローンを選択する際に、最も「安い」商品を選びたいというのが、利用者の切なる希望ではないでしょうか。しかしながら、その希望とは裏腹にそれを提示することは簡単ではありません。
これまでAPRを使って総支払額が最も少なくなる商品を算出する方法を紹介してきましたが、HPに公表されている条件をもとに、表面金利とAPRのランキングを作成してみました。
(2017年2月現在)
表面金利ベスト5 | APRベスト5 | ||||||||
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金融機関名 | 金利タイプ | 表面金利 | APR | 金融機関名 | 金利タイプ | 表面金利 | APR | ||
1 | MS信託銀行 | 2年固定 | 0.35% | 0.857% |
1 | R銀行 | 変動金利 | 0.507% | 0.571% |
1 | MS信託銀行 | 3年固定 | 0.35% | 0.833% |
2 | R銀行 | 2年固定 | 0.86% | 0.612% |
1 | Sネット銀行 | 2年固定 | 0.35% | 1.033% |
3 | Sネット銀行 | 変動 | 0.497% | 0.626% |
4 | MU信託銀行 | 3年固定 | 0.38% | 0.797% |
3 | J銀行 | 変動 | 0.497% | 0.626% |
5 | A銀行 | 2年固定 | 0.38% | 0.833% |
3 | Aモーゲージ | 変動 | 0.497% | 0.626% |
前提条件
借入金額3,000万円、借入期間35年、元利均等返済、最優遇金利を適用
固定金利期間終了後は変動金利となり、変動金利は最後まで変更がないものとする
対象金融機関は17社で、新規借入時の金利、諸費用をベースに筆者が試算
このように、表面金利とAPRでのベスト5は一つとして同じものがありません。
表面金利ではなくAPRで比較したランキングが本当に安い順であるという主張は妥当性がありそうですが、やはりこれをそのまま鵜呑みにしてはいけません。
このランキングは、あくまでも上記前提条件の場合にしか通用しないからです。
ランキングは、前提条件にある「借入金額」、「借入期間」、「返済タイプ」、「優遇条件」、「将来の金利変化」により順位が変わってしまうのです。どの要素もランキングに影響を与えますが、特に将来の金利変化は順位を大きく変動させるため、慎重に検討する必要があるからです。そこで、金利についての前提条件を変えてみましょう。6年目に変動金利の店頭金利が4%になり、その後は最後まで金利が変わらない、としてみます。店頭金利4%は、過去の代表的な変動金利の平均値です。この金利の条件で、さらに借入期間を25年と35年の2つのランキングを出してみました。
APRベスト5(金利上昇時) | APRベスト5(金利上昇時) | ||||||||
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借入期間25年 | 借入期間35年 | ||||||||
金融機関名 | 金利タイプ | 表面金利 | APR | 金融機関名 | 金利タイプ | 表面金利 | APR | ||
1 | MS信託銀行 | 20年固定 | 1.00% | 1.215% |
1 | MS信託銀行 | 30年固定 | 1.05% | 1.212% |
2 | MS信託銀行 | 20年固定 | 1.02% | 1.234% |
2 | Aモーゲージ | 35年固定 | 1.10% | 1.280% |
3 | M銀行 | 全期間固定 | 1.11% | 1.265% |
3 | M銀行 | 35年固定 | 1.15% | 1.285% |
4 | S銀行 | 20年固定 | 1.20% | 1.273% |
4 | Aモーゲージ | 35年固定 | 1.00% | 1.350% |
5 | Aモーゲージ | 全期間固定 | 1.00% | 1.287% |
4 | Aモーゲージ | 35年固定 | 0.70% | 1.350% |
このように、「将来の金利変化」や、「借入期間」が異なると、順位が大きく変わるだけでなく、APRも倍くらいになっています。
また、「借入金額」、「返済タイプ」、「優遇条件」によっても順位は大きく変わってしまいます。たとえば借入金額は、金融機関ごとに諸費用が定率タイプと定額タイプに分かれているものがあり、借入金額が大きくなれば定額タイプの方が有利になるため、順位が変わることがあります。
これらの前提条件のうち、「借入金額」、「借入期間」、「返済タイプ」、「優遇条件」などは、利用者が決定することができます。従って、当初の金利だけで選ぶのではなく、借入条件を確定させてからランキングを作成しなければなりません。
ただし、「将来の金利変化」は、予測できるものではなく、また利用者ごとに決定すべき性質のものではありません。従って、金利の変化はいくつかのパターンを見ながら、ランキングの変化をみた上で、最終的には利用者が選択すべきものであると考えます。
住宅ローンアドバイザー 淡河 範明