借換えメリット計算における商品選択の注意点の2回目として、「金利変化に応じて最も総返済額が少ない商品を選択する」ことについて解説します。
トータルコストの計算に未来予測は不要
トータルコストを計算する上で、全期間の利息を計算するには、当然、償還まで金利が何%で推移するかを決めなければ計算できません。第5回は金利が変動しない前提としましたが、実際には必ず変動するので、それはかなり妄想(?)の数値なのです。
また、変動金利型や固定金利期間選択型を選択した場合、固定金利期間が終了した時点での金利水準に応じて、金利タイプを変更するでしょう。つまり、将来の金利とは、具体的には、全期間におけるすべての金利タイプを予測し、金利タイプ選択のロジックを考えることも必要ですが、そんな面倒なことは考えるだけ時間のムダではないでしょうか。
そこで、未来予測の精度を上げることとは別の発想が必要となります。目的は「よりよい金利タイプを選択すること」であって、未来を正確に予測するモデルを作ることではありません。つまり、正確な予測をせずとも金利タイプを合理的に選択する方法、より簡単に効果を得られるような方法を考えればよいのです。
リスク管理の観点から金利タイプを選ぶ
その方法は、リスクに注目して判断する方法です。
金利が変動すると、当然にして毎月返済額や総支払利息額は変化します。その変化が大きければ家計は耐えられないかもしれません。それは金利タイプの選択も原因の一つですが、その変化を受け入れられない家計のキャパシティの問題でもあります。
将来の金利変動が家計に致命傷を与えるのを回避するため、「家計を改造」してそのリスクに備えるのも一つの方法です。これも重要な手段ではありますが、誰にでも十分にできる訳ではありません。
もう一つの、そして誰でも確実にできる簡単な方法があります。それは、致命傷になる可能性のあるリスクは取らないという方法です。
将来の金利は次のように決定する
将来の金利について、金利の期間構造をすべて想定して計算すること(例えば、35年分の金利タイプをすべて設定するようなイメージ)は現実的ではありません。最小限の労力で最も効率的な結果を出すため、金利シナリオは少なくとも2つあれば十分だと考えます。それは、「金利が全く上昇しない場合」と「金利が上昇した場合」です。
「金利が上昇した場合」のシナリオは、金利が、いつ、どこまで上昇するかを決めて計算する必要があります。これも一種の予測ですが、変動金利の過去の平均値である3.875%※くらいまで上昇すると想定することにしてみましょう。
細かい話は省きますが、私は6年目に変動金利が4%に上昇し、完済までずっと変わらない場合を計算しています。つまり、平均並みに上昇した場合を一つのリスクシナリオとしています。下表の金利変動時の毎月返済額の変化を見てください。
※2016年11月現在における店頭金利の過去の平均値
借換えを検討している住宅ローンの条件
- 借入金額3,000万円
- 借入期間32年
- 元利均等返済
*平成28年11月現在の融資条件で試算
変動金利 | 5年固定 | 10年固定 | 全期間固定 | |
---|---|---|---|---|
金融機関名 | R銀行 | R銀行 | M銀行 | M銀行 |
APR | 0.577% | 0.798% | 0.675% | 1.020% |
金利変動なしのMP | 84,650円 |
88,427円 |
86,887円 |
91,600円 |
金利4%に上昇時のMP | 115,935円 |
116,702円 |
111,727円 |
91,600円 |
増加額 | 31,285円 | 28,275円 | 30,840円 | 0円 |
*MPとは毎月返済額(Monthly Payment)です。
金利変動の影響を数値にして視覚化することで、商品選択は非常に簡単になります。ここで重要なポイントは、借換え希望者の支払限度額(家計のリスク許容度の指標の一つ)です。これ以上は支払いが不可能という水準がわかれば、上記の商品の中でどれを選択してよいのかすぐに判断できます。
例えば、支払限度額が12万円以上であれば、どの商品を選択してもリスクがそれほど家計にとって大きなダメージにはなりにくいと考えられます。しかし、支払限度額が11万円であれば、変動金利や5年固定はおろか、10年固定でさえも選択するのは家計にとってのリスクが大きすぎる、といえるでしょう。
リスク管理の観点から選択してはいけない商品を外すことで安全性を確保し、残った商品の中からそれぞれの家計にとってふさわしい(=最も安くなると感じる)金利タイプを選択することができれば、安全性と割安性の両方を確保した選択ができるようになります。
住宅ローンアドバイザー 淡河 範明