第5回 トータルコストからの商品選択

住宅ローンの借換えを検討する際には、借換えメリットがあるのかどうかを実際に計算してみるのが一般的でしょう。計算にあたっては、以下のような借換え専用の住宅ローンシミュレーターを利用することも多いと思われます。

借換えシミュレーター 一例(住宅金融支援機構)

住宅ローンシミュレーターの利用と商品選択

Web上で最新の住宅ローン金利を参考に、借換えシミュレーターに金利や借入額、借入期間などの数値を入力することで、借換えによる総返済額の概算を計算することができます。
しかし、実際に住宅ローン商品を選択するのは簡単ではありません。
なぜなら、各金融機関やランキングサイト等はその月の新規借入金利で表示されているため、実際の借換え時には金利が異なる可能性がある上、審査によって適用される金利が違ったり、諸費用が記載されていないため自分で確認する必要があるからです。
そのため、web上の金利だけを見てシミュレーターに数値を入力した結果、適切ではない結果を導き出してしまう危険性があります。
そういったことを避けるため、住宅ローン商品の選択では、主に以下の2点に注意を払う必要があります。

  1. トータルコストを把握して最も総返済額が少ない商品を選択する
  2. 金利変化に応じて最も総返済額が少ない商品を選択する

今回は、このうちの1をみていきましょう。

トータルコストからの選択

トータルコストを把握するために重要なことは、①金利および優遇制度、②将来の全期間の金利、③諸費用の3点を確認することです。APR(Annual Percentage Rate/年換算利回り)を用いれば、これらをすべて反映した比較が可能になります。
事例として、「5つの金融機関」の変動金利型住宅ローンで試算してみましょう。

借換えを検討している住宅ローンの条件
借入金額3,000万円、借入期間30年、元利均等返済、最優遇金利適用

*計算上、金利は将来変動しないことを前提とする

APRによる比較(5金融機関)
順位 1 2 3 4
金融機関名 R銀行 J銀行
Sネット銀行
P信託銀行 S銀行
変動金利(優遇) 0.510% 0.497% 0.520% 0.400%
APR 0.584% 0.646% 0.670% 0.952%
トータルコスト 3,268万円 3,294万円 3,305万円 3,450万円
当初金利(変動金利型)による比較(5金融機関)
順位 1 2 3 4
金融機関名 S銀行 J銀行
Sネット銀行
R銀行 P信託銀行
優遇タイプ 当初期間優遇 全期間優遇 全期間優遇 全期間優遇
変動金利(優遇) 0.400% 0.497% 0.510% 0.520%
APR 0.952% 0.646% 0.584% 0.670%
トータルコスト 3,450万円 3,294万円 3,268万円 3,305万円

※元利総支払額と諸費用を合計したもの

5金融機関の変動金利型住宅ローンの諸条件
金融機関名 基準金利 優遇金利 基準金利からの引下げ幅 融資手数料(タイプ)
R銀行 1.160% 0.510% 全期間一律優遇 ▲0.650% 324,000円(定額型)
Sネット銀行 2.775% 0.497% 全期間一律優遇 ▲2.278% 648,000円(定率型)
J銀行 2.341% 0.497% 全期間一律優遇 ▲1.844% 648,000円(定率型)
P信託銀行 2.630% 0.520% 全期間一律優遇 ▲2.110% 648,000円(定率型)
S銀行 1.600% 0.400% 当初優遇
初回利率変更日以降
残高500万円未満
▲1.200%
▲0.650%
▲0.250%
54,000円(定額型)

*保証料は5金融機関とも0円

5金融機関の住宅ローン(変動金利型)のAPRを計算してみると、R銀行は手数料が定額タイプで他商品よりも割安となるため、金利が多少高くてもAPR(0.584%)が最も低く、トータルコストも一番少なくなっています。
これは借入金額を3,000万円という条件にしたことが影響しており、借入金額が少なくなるとS銀行の順位が上がる可能性があります。
一方、当初の金利を比較すると、S銀行は0.4%と最も低く、融資手数料も定額タイプ54,000円と圧倒的に低水準であるにも関わらず、APR(0.952%)と5金融機関の中で最も高くなっています。
これは諸条件表のとおり、S銀行の変動金利の優遇幅は、初回利率変更日以降、大まかに言えば変動金利の適用金利が見直される半年後と、借入残高500万円未満になった時との2回、基準金利からの引下げ幅が縮小するのが原因です。
この条件でR銀行とS銀行のトータルコストの比較をすると、約180万円以上の差となってしまいます。優遇制度の違いが諸費用の差よりも大きく影響を生じるため、借換えをする時は慎重に選択することが必要となるのです。

(注)固定期間終了後の優遇制度の違いは、全期間優遇であれば店頭金利と合計して検討すればよいので、意外と計算は簡単です。当初期間と固定期間終了後の優遇が違う場合には、計算はやや複雑になりますが、ここでは固定期間終了後には変動金利にすると決めることで、計算を単純に行うことができます。

住宅ローンアドバイザー 淡河 範明