第2回 同じ固定期間のローン比較

APR(Annual Parcentage Rate/年換算利回り)を利用した住宅ローンの比較は、原則的に、同じ金利タイプ間での比較に限定すべきです。その最大の理由は、金利タイプが異なると金利変動リスクが大きく変わってしまいますが、APRで示される実質的な利回りでは、金利変動リスクとなる部分が表されないからです。つまり、金利水準だけしか把握できないので、金利変動リスクの大きさが判断できず、予想以上のリスクを負ってしまう可能性があるのです。
厳密にいえば、変動金利と1~3年の固定金利くらいであれば、あまり金利変動リスクの大きさに違いがないため、比較をしても大きな問題はないかと考えますが、10年、20年など比較的長い固定金利や、全期間固定金利との単純な比較は避けるべきです。

固定期間がより長い金利タイプのAPR比較

第1回は変動金利しか比較していませんでしたが、第2回は固定期間がより長い金利タイプの比較をしてみたいと思います。
APRの特徴としては、金利と諸費用の絶対額だけではなく、諸費用の絶対額やその支払時期によっても影響があります。
まずは、M銀行とS銀行の10年固定を比較してみましょう。

(例3)

借入金額3,000万円、借入期間35年、元利均等返済

M銀行:10年固定0.85%、変動金利の店頭金利2.475%、
固定期間終了後▲1.4%、融資手数料32,400円、
保証料:借入金額の約2.06%

S銀行:10年固定1.150%、変動金利の店頭金利1.889%、
固定期間終了後▲1.05%、融資手数料:43,200円、
保証料なし(自己資金10%以上)

試算結果は次のとおりです。
M銀行:総支払額3,602万円、APR 1.093%
S銀行:総支払額3,554万円、APR 1.005%

M銀行の当初金利0.85%の方が、S銀行の当初金利1.15%よりも低いのに、総支払額とAPRを見れば、S銀行の実質的な支払金額が少なくなることがわかります。このように、当初の金利だけで判断しないということが、とても重要であると考えます。また、同じ10年固定でもあることから、将来の金利水準が変わっても結果に大きな違いは出ないでしょう。
トータルの支払額とAPRは、どちらも実質的なコストを示しているという点でとても似通っているのですが、APRの大きな特徴は各支払について支払時期の違いを考慮している点です。
金融工学の世界では、支払時期の異なるお金は同額でも価値が異なる、という考え方を採用しています。例えば、今日の100万円と10年後の100万円の価値は違う、と考えます。これがどれくらいの違いがあるかを理論的に計算して、現在と将来の支払額の差を正確に比較しているのです。
元利均等返済と元金均等返済について比較すると、それぞれのキャッシュフローが大きく異なるため、興味深い結果が得られます。これは、フラット35の各タイプともあわせて計算してみます。

(例4)フラット35の金利は1.47%(フラット35Sの金利引下げ幅は0.6%)とし、団体信用生命保険は普通団信で年払いとする

返済タイプ 指標 フラット35 フラット35S(Bプラン) フラット35S(Aプラン)
元利均等返済 総支払額 4,112万円 4,015万円 3,934万円
APR 1.980% 1.802% 1.662%
元金均等返済 総支払額 4,028万円 3,944万円 3,873万円
APR 1.987% 1.798% 1.655%

*融資手数料は借入額の2.16%で計算

返済タイプのうちフラット35だけではありますが、元金均等返済の方が総支払額は少ないのに、元利均等返済のAPRの方が低くなるといった結果になっています。一般的には、元金均等返済の方が、コスト負担は小さいと考えられているのですが、このような逆転現象はキャッシュフローの差から生じているといえます。
では、この結果をどのように読み取るべきかといえば、元利均等返済であっても手元現金の運用利回り次第では、コスト的に元金均等返済よりも有利となることがある、というくらいに理解しておけばよいでしょう。

住宅ローンアドバイザー 淡河 範明