既存住宅流通市場の活性化と中古住宅購入・リフォーム一体型住宅ローン・リノベ
既存住宅を購入し、自分の好きなようにリフォームして暮らす――。最近、若い世代を中心に広まりつつある住宅購入のスタイルです。新築よりも安く、条件のよい住まいを手に入れることができる点が最大の魅力といえるでしょう。
一方で、購入やリフォームに当たっては、新築住宅の購入とは異なる難しさもあります。なかでもリフォーム資金の確保は、とくに自己資金の少ない世帯にとっては大きなハードル。そこで各金融機関は、住宅購入資金とリフォーム資金とを一括で融資する「リフォーム一体型」住宅ローンの商品化を進めています。
本特集では、そのような既存住宅に係る住宅ローン商品の現状について解説します。
既存住宅流通市場活性化に向けた取り組み
少子高齢化の進展や、空家の増加などを背景に、既存住宅流通市場の拡大は、我が国の住宅政策における大きな柱の一つとなっています。国土交通省が2016年3月に公表した「住生活基本計画」においても、「既存住宅の流通と空き家の利活用を促進し、住宅ストック活用型市場への転換を加速」するということが、課題の一つに掲げられています。
また、宅地建物取引業法の改正により、2018年4月から既存住宅におけるインスペクションの導入や、安心R住宅制度の実施(2017年12月)など既存住宅流通市場の活性化に向けた環境整備が着々と進められています。
住宅ローンとリフォームローン
既存住宅の購入時に、あわせて検討されることが多いのが住宅のリフォームです。ほとんどの既存住宅購入者が、なんらかのリフォームを検討しているといわれています。
ただ、リフォームと一口にいってもその中身は、天井や壁のクロスの張り替えなどといった比較的簡易なものから、耐震性能や省エネルギー性能など建物自体の性能を向上させる大がかりなものまでと多岐にわたります。当然、工事費用についても数十万円程度から数百万円まで大きな開きがあります。さらに、かつてはリフォーム費用をローンで賄おうとした場合、一般的に返済期間が短く金利も割高で、また融資額などに制限のあるリフォームローンを、住宅ローンのほかに組む必要がありました。そのため、自己資金の少ない消費者にとっては、本格的なリフォームに取り組むことは、決して容易とはいえない状況でした。
「フラット35(リフォーム一体型)」の登場
そうしたなか、住宅金融支援機構が2015年4月より取扱いを開始したのが、「フラット35(リフォーム一体型)」です。これにより、中古住宅の購入資金とリフォーム資金を合わせて、フラット35の条件で借り入れられるようになりました。あくまでも、中古住宅の購入と一緒に実施するリフォーム工事が対象ですが、工事内容に関する制限が設けられていないため、自由なリフォーム工事を実施できるところも大きなメリットです。
また、もとはフラット35の技術基準を満たしていなかった中古住宅であっても、リフォーム工事により性能が向上し、フラット35の技術基準を満たすようになれば適用可能で、さらにフラット35Sの技術基準を満たすようになる場合には、フラット35Sも利用することができるという特徴があります。
注意点としては、フラット35(リフォーム一体型)の借入金を受け取れるのはリフォーム工事の代金決済時となるため、中古住宅の代金決済時からそれまでの間につなぎ融資が必要となること、一部の一戸建て等住宅で既存住宅売買瑕疵保険への加入が必要となるケースがあること――などが挙げられます。
【フラット35(リフォーム一体型)】の商品概要等
資金使途 | 中古住宅の購入及び中古住宅の購入と併せて行うリフォーム工事に必要な資金 ※リフォーム工事の内容、リフォーム工事費の金額や割合に制限はありません。 |
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お借入の対象 となる住宅 |
「中古住宅購入価額とリフォーム工事費の合計額」が1億円以下の住宅 |
お借入額 | 100万円以上8,000万円以下で、「中古住宅購入価額とリフォーム工事費の合計額」以内お借入金利 |
お借入金利 |
※お借入金利は取扱金融機関によって異なります。 |
お申込先 | 【フラット35(リフォーム一体型)】の取扱金融機関 ※【フラット35(リフォーム一体型)】を取り扱っていない金融機関があります。取扱金融機関については、フラット35サイトでご確認ください。 |
その他 | 通常のお申込書類に加えて、「長期固定金利型住宅ローン(機構買取型)借入申込みに係る申出書(リフォーム一体型用)」 及びリフォーム工事費の金額が確認できる資料(工事請負契約書、注文書・請書等)が必要となります。 |
(注)その他の条件は通常の【フラット35】と同じです。
一般的な手続の流れ(一戸建て等の場合)


(注)【フラット35(リフォーム一体型)】の資金のお受取は適合証明検査後(リフォーム工事完了後)となります。中古住宅の代金決済やリフォーム工事費の分割払いの際に「つなぎ融資」が必要な場合は、取扱い金融機関にご相談ください(「つなぎ融資」は取扱金融機関等のローンです)。
※新築時に【フラット35】の物件検査を受けた住宅などは、既存住宅売買瑕疵保険の付保を省略できる場合があります。
新たな試み「フラット35リノベ」
また、住宅金融支援機構は2016年10月、新たな試みとして「フラット35リノベ(性能向上リフォーム推進モデル事業)」を取扱い開始しました。
リフォーム工事によって、「省エネルギー性」「耐震性」「バリアフリー性」「耐久性・可変性」の4つのカテゴリーのうちのいずれか1つ以上について、定められた技術基準を満たす性能に向上させることで、フラット35の金利を0.5%引き下げることができます。金利引下げの期間は、技術基準のレベルに応じて、金利Aプラン(当初10年間)と、金利Bプラン(当初5年間)に分けられています。ただし、リフォーム工事以前から当該技術基準を満たしていた場合には、金利引き下げの対象にはならないことに注意が必要です。
また、消費者が中古住宅を購入して性能向上リフォームを行う場合のほか、買取再販業者が性能向上リフォームを行った中古住宅を購入する場合にも、利用することが可能です。
注意点として、まず、フラット35Sとの併用はできません。また、「中古住宅の維持保全に係る措置」に定められた4つの措置(①インスペクションの実施、②瑕疵保険の付保等、③住宅履歴情報の保存、④維持保全計画の作成)のうち、いずれか1つを実施しなければなりません。そのうち、③住宅履歴情報と④維持保全計画については、住宅金融支援機構が参考書式を用意しています。
【フラット35】リノベ(金利Aプラン)
当初10年間【フラット35】の借入金利から年0.5%金利を引下げ
次表の(1)から(6)までのうち、いずれか1つ以上の基準に適合させる性能向上リフォームを行うこと。
(リフォーム工事前に適合している基準は、対象になりません。)
省エネルギー性 | (1)認定低炭素住宅 (2)一次エネルギー消費量等級5の住宅 (3)性能向上計画認定住宅(建築物省エネ法) |
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耐震性 | (4)耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)3の住宅 |
バリアフリー性 | (5)高齢者等配慮対策等級4以上の住宅(共同住宅の専用部分は等級3でも可) |
耐久性・可変性 | (6)長期優良住宅 |
【フラット35】リノベ(金利Bプラン)
当初5年間【フラット35】の借入金利から年0.5%金利を引下げ
次表の(1)から(6)までのうち、いずれか1つ以上の基準に適合させる性能向上リフォームを行うこと。
(リフォーム工事前に適合している基準は、対象になりません。)
省エネルギー性 | (1)断熱等性能等級4の住宅 (2)一次エネルギー消費量等級4以上の住宅 |
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耐震性 | (3)耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上の住宅 (4)免震建築物 |
バリアフリー性 | (5)高齢者等配慮対策等級3以上の住宅 |
耐久性・可変性 | (6)劣化対策等級3の住宅で、かつ、維持管理対策等級2以上の住宅 (共同住宅等については、一定の更新対策が必要) |